●この形どこかで見たような?

この、それぞれの中心部に網様体があり、ハの字の閉じている側が出力担当、開いている側が入力担当という形は、すでに登場した視床の断面とよく似ている。発生的に、脳幹の次に視床などの間脳ができたので、視床の形が脳幹と似ていることは自然である。ところで、間脳の後に発達した終脳では、中心溝を境に、前方が出力、後方が入力という基本的な配列であり、後方正中が左右に開いていない。そういえば脊髄も左右の前角と後核が前後方向に並んでおり、後方正中が左右に開いていない。そこで、本書ではこれまで封印してきた神経管の成り立ちを調べてみる。胚子の背側に生じた神経板に縦方向に神経溝ができ、それが落ちくぼんで両側の縁が接着して神経管という筒状の中枢神経構造の基本形ができる。つまり、後方(背側)が左右ハの字に開いているのは発生の比較的初期の形体で、閉じて基板と翼板が前後方向に並ぶのは発生の比較的後期の形体である。だから、古い構造である脳幹・間脳は、まるでシーラカンスのように初期の形体が保たれており、新しい構造である終脳や脊髄は発生が完了した形体になっているのではないだろうか。本書では「I解剖モデルができるまで」で示したように、中枢神経を粘土状の充実性の構造とみなし、神経管はないものとし、Archeocerebellum+Paleocerebellumが背側正中にとびだすときに脳幹の背側が左右に押し広げられると説明しているが、実は神経管の背側が開いているのである。

 


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