●大脳辺縁系と鮭の遡上
Iが入る脳の部位、生殖器に相当する脳の部位は、いずれも終脳のうち最も古く、冠状断で見ると最も押し込まれた部分である。最も古くからあったということは、間脳から終脳が分かれてできてきた当初からある部分である。だから、間脳と強い連絡がある。これらの終脳の部分は、大脳辺縁系と呼ばれている(厳密にはIが入る部位は辺縁系に近いが辺縁系に属さない)。辺縁とは、大脳半球が発育する中心(上肢・下肢に相当する部分)に対して、辺縁つまり最も押し込まれた位置という意味と思われる。この部分は、匂い、生殖という、動物の最も原始的な営みに関与していると同時に、記憶の回路(Papez回路)が通っており、記憶もまた古い機能と思われる。ヒトの祖先であろう魚の鮭が、川の水の「匂い」の「記憶」を頼りに「生殖」のために帰ってくる行動は、大脳辺縁系の働きを象徴しているように見える。