● 失調について

     「失調」に明確な定義はない。通常、@協調運動、A平衡、B関節荷重覚の3つの機能の障害に対して、失調という表現が用いられている。@は運動、Aは平衡、Bは知覚のカテゴリーにそれぞれ含まれ、まったく異なる機能だが、機能の障害が生じたときに観察できるのは最終的に出力された結果であるため、出力がうまくいっていないことを観察して症状・徴候としてまず失調という用語が用いられ、後から脳の機能や解剖が分かってきて分類が試みられたものと思われる。

     失調は、四肢失調と体幹失調(症状が現れる身体の部位による分け方)、小脳性失調と脊髄性失調(病変がある中枢神経の部位による分け方)に分けることがある。これらの分け方はそれぞれ異なる視点で分けており、いずれも、3つの機能の障害のどれにも1対1対応していない。3つの機能のどれに障害があるかを抽出するには、指鼻試験、Romberg試験の、2つのテストを組み合わせる必要がある。

     指鼻試験異常は、協調運動障害によって現われ、他の機能障害では現われない。指鼻試験異常であれば、協調運動障害があると診断できる。協調運動の回路を構成する主な構造は、Neocerebellumなので、Neocerebellumに病変があるときに症状が現われる。したがって協調運動障害は、四肢失調かつ小脳性失調と同値である。

     指鼻試験異常なしの場合、Romberg試験を行う。Romberg試験陽性(=Romberg徴候)は、関節荷重覚障害によって現われ、他の機能障害では現れない。閉眼では立位を保てず倒れてしまうが、開眼すれば倒れることなく立位を保つことができることをいう。これは視覚からの入力情報つまり知覚により補うことができる障害があることを示す。つまり、立位を保てない原因が知覚の欠如であることを示す。Romberg試験陽性であれば、関節荷重覚障害と診断できる。関節荷重覚の回路が通る主な構造は、脊髄後索なので、脊髄後索に病変があるときに症状が現われる。したがって関節荷重覚障害は、体幹失調かつ脊髄性失調と同値である。

     指鼻試験異常なしで、Romberg試験陰性の場合、つまり、閉眼で立位を保てず倒れていまい、開眼しても同じように倒れてしまう場合、入力情報つまり知覚で補うことができない障害があることを意味する。これは、十分な入力情報があっても姿勢を保つための適切な出力ができていないことをしめすので、平衡障害である。指鼻試験異常なしかつRomberg試験陰性であれば、平衡障害と診断できる。平衡の回路を構成する主な構造はArcheocerebellumPaleocerebellumなので、ArchecerebellumまたはPaleocerebellumに病変があるときに症状が現われる。したがって平衡障害は、体幹失調かつ小脳性失調と同値である。

≪ 表 失調のタイプと鑑別と機能との対応≫

 


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